転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


133 おっきな料理人と困った旦那様



 ロルフさんと別れた僕とストールさんは、お屋敷の調理室に向かった。

「ところで、にんにくと生姜の調理法はご存知なのですか?」

「うん! 知ってるから大丈夫だよ」

 前世の記憶のおかげで、僕はいろんな料理の作り方を知ってる。

 と言っても、前世でいっぱい料理をしてたわけじゃないよ。僕がいろんな料理の仕方を知ってるのは、前世で見てたテレビのおかげなんだ。


 僕の前世ってとっても体が弱かったから病院って所に入退院を繰り返してたんだけど、でもずっと寝てられる訳無いから入院中ってかなり暇なんだよね。

 だからラノベとか漫画をよく読んでたんだけど、でも持ち込んだものは何度も読み返してるうちに飽きてきちゃうから入院中はテレビを見てる時間がどうしても多くなるんだ。

 でも昼間はアニメとかドラマはやって無いし、ニュースとか政治の話は面白く無いからどうしても見るのはバラエティー番組っぽい情報番組ばっかり。

 で、その手の番組でよくやってたのが誰でも作れる簡単な料理のコーナーなんだ。

 特にお昼にやってたオヒルデスヨって言う番組では、料理があんまり得意じゃない芸能人にクイズで作り方を当てさせたり料理人の人が出てきて教えながら作ったりしてたから、それを見てるうちにその番組で出されるクイズの答えが解っちゃうくらいには料理の作り方に詳しくなったんだ。

 ただいっぱい覚えてるんだけど、その番組で覚えた料理の殆どはお醤油ってのとお味噌ってのを使ってたから今は作れないんだけどね。

 あの番組でお醤油とかお味噌の作り方も教えてくれてたらよかったのに。


「そうですか。ルディーン様がそう仰るのを聞いてわたくし、安心いたしました」

 僕の答えを聞いて笑顔になるストールさん。でも僕は、そんなストールさんの返事を聞いて思い出したんだ。

「あとね、さっきも言ったでしょ。様はやめてって」

「それに関しては旦那様のご判断を仰がなければ、わたくしでは判断できませんと申し上げたはずですが?」

 馬車の中では僕とロルフさんがお話してたからなのか、ストールさんは一度も僕の名前を呼ばなかった。だから僕は、名前に様をつけなくてもいいよね? って聞くのを忘れちゃったんだよね。

 おかげでロルフさんのご用時が終わるまで、僕の名前に様をつけなくても大丈夫かまだ解んないんだって。

 仕方ないから、ロルフさんのご用時が終わったら今度こそちゃんと忘れずに聞いてねってストールさんと約束して、それまでは今のまま呼ばれるのを我慢する事にしたんだ。 


 そんな会話をしているうちに調理室に到着。するとそこにいたのは3人の男の人で、そのうちの1人にストールさんが声をかける。

「クラーク。こちらはカールフェルト様と言って、旦那様の大事なお客様よ。そして今朝預けたウサギの魔物の肉をお土産に下さった方でもあるわ」

「おお、あの肉をお持ち頂いた方ですか。それは挨拶をしなければ……って、えっ?」

 ストールさんに名前を呼ばれたのは3人の中でも一番背が高くて筋肉の塊みたいな男の人。

 外見は茶色っぽい金色の短髪で藍色の瞳。真顔の時に会ったらきっと怖い人なのかな? って思っちゃうだろうなぁって顔の人なんだけど、でも僕のほうを振り向いた時のニカッて音が聞こえそうな笑顔のおかげで、ホントは優しいんだろうなってのが解る人だった。

 ただ、その笑顔はすぐに困ったような表情になったんだ。

 それを見た僕は何でだろう? って思ったんだけど、この男の人の視線を見てたらすぐにその理由が解った。

 この人、僕に気付いて無いや。

 そう、この男の人はストールさんの顔を見た後、その後ろにいるであろう大人の人を探して、それが見つからなかったからそんな顔をしてたんだ。 

「クラーク、どこを見ているのですか? カールフェルト様は此方。此方の方が旦那様の大事なお客様である、ルディーン・カールフェルト様よ」

「ルディーン・カールフェルトです。8歳です。よろしくお願いします」

 改めてストールさんに紹介された僕は、自分の名前を言ってペコリと頭を下げる。

「あっ、どうも」

 そんな僕にクラークって人はそう言って返してくれたんだけど、その顔は困ったままだ。

 多分僕が子供だから、どうしていいのか解んなくなったんだろうね。

「クラーク。わたくしは旦那様の大事なお客様だと言いましたよね? それなのに、その態度は何です!」

「はい! 申し訳ありません、ストール女史」

 ただ、その態度に怒ったのがストールさん。

 凄い剣幕で怒鳴りつけたもんだから、クラークって人だけじゃなく奥の厨房に居たほかの二人まで直立不動の体勢になっちゃったんだ。

 そっか、ストールさんってクラークさんとは逆でとっても優しそうなんだけど、怒るとこんなに怖いんだね。僕も気をつけなきゃ。


「改めまして。この館の調理室を任されているクラーク・ノートンです。よろしくお願いします」

 怒られて小さくはなったけど、その後で気を取り直して僕にそう挨拶したクラークさん改めロートンさんは、

「このたびは貴重なウサギの魔物の肉や、その内臓の肉をありがとうございます。滅多に手に入らないものですから、十分に気をつけて調理させていただきます」

 こうお礼を言った後、さっきと同じようにニカッと言う音が聞こえてきそうな笑顔を僕に向けてくれたんだ。

「その事なのですが。クラーク、先ほど旦那様が薬草専門店で料理に使えるという薬草を手に入れたのです」

「料理に使える薬草、ですか?」

 ただそんなノートンさんの笑顔は、また困ったような顔になっちゃったんだよね。

 でも薬草を料理に使うって急に言われたって困っちゃうのも解る気がするんだ。だって普通、薬草はお薬に使うものだもん。

 それが解ってるストールさんは、そんなノートンさんにも解るように話を続けたんだ。

「はい。その情報はウサギの魔物の肉同様、このカールフェルト様から齎されました。またその調理法もご存知との事でしたので、此方にお連れしたのですよ」

「なるほど。では薬草を料理に使うと言うのは薬草専門店の店主からではなく、別の場所からいらしたカールフェルト様からの情報なのですね。理解しました」

 そこまで聞いてやっと笑顔になるノートンさん。

 でもさ、さっきまであんなに困った顔してたのに、なんで僕が教えたんだって聞いたらこんな安心した顔になったんだろう? 薬草を料理に使う事にびっくりしてたんじゃないの?

 そう思ってストールさんに聞こうとしたんだけど、その前にノートンさんがその理由を口にしたんだ。

「いや、またあの金儲け主義の店主が旦那様に薬草を売りつけるために訳の解らない事を言い出したのではないと聞いて安心しました。旦那様は珍しい薬草に目が無い上に好奇心旺盛な方ですから、例え胡散臭い情報でも一度は試してみようとお考えになられますからね」

「ええ。わたくしも目の前でカールフェルト様から旦那様にその情報をお伝えいただいたのでなく、後から伝え聞いたとすれば同じ感想を持ったことでしょう」

 解る解ると頷き合う二人。もしかしてロルフさんって何に効くのかよく解らない薬草でも、手に入ったらとにかく試してみちゃうの? でも、それってとっても危ないんじゃないかなぁ。

 そんな二人を見て僕はちょっと心配になったんだけど、

「ああ、大丈夫ですよ。旦那様も流石に初めての薬草をいきなり試したりはしませんから」

「そうそう。出来上がった薬品はいつもまず錬金術ギルドに持ち込んで、あそこのギルドマスターと二人で慎重に毒などの危険が無いことを確認してからお使いになられるので、その点だけは安心してください」

 そっか。そうだよね。

 ジャンプの魔法の時やウサギの内臓のお肉、それににんにくや生姜の話を聞いた時のロルフさんを見てたからちょっと心配だったけど、ロルフさんだって自分の体がどうにかなっちゃうかもしれないようなものを、調べもしないでいきなり使ったりはしないよね。

「ただ口にした途端に、あまりに苦かったり辛かったりしてのた打ち回るのだけはやめていただきたいものですわ。心臓に悪いですもの」

「そうそう。毒だけではなく、味も調べていただきたいですよね」

 えっと、味は調べないんだ。

 そう言えば錬金術の解析って成分が解るだけで、僕の鑑定解析みたいにどんな物かは解んないんだっけ。

 でも苦いのはともかく、辛いのは匂いで解りそうなもんだけど……やっぱり好奇心には敵わないのかなぁ。


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